試合帰り

卯月も佳境。もう6時になると言うのに、外が悪戯に明るい。そんなことを頭の片隅に置いて、風呂に入った。いつもより早い時間だった。

 

僕は明るい風呂場が好きだ。勿論いつも明かりをつけて入るので明るいのは当たり前だが、そう言う意味ではなく、外が明るいうちに入るのが好きなのだ。外が明るいと、風呂場の様子はいつもと全く違うように感じられる。いつもより、ずっと。ずっと冷たくて、広くて、清潔だ。そんな風呂場が恋しくて、これから暫く明るいうちに入ろうかと考えてみたけれど、多分これって日常の特性によるもので、毎回毎回同じものを経験すると、人間はそのものに対して最初と同じように心が動くことはなくなるのと同じだという結論に至り、やめた。

 

そういえば、この冷たさと広さと清潔さには、必ず青色が伴ってる気がする。白地の布地に青色の絵の具をチューブからボトッと落として無造作に塗り広げたような。そんなイメージが視界の左下と右下で揺れ動いている。現れては消えてを繰り返している。

 

 

 

今日は暫く美しさについて色々と考えていた時間があった。そこでやってみたのは、絵を描くことと、本を読むことだった。相変わらず僕は物事を考えるのが下手くそで、今日もあまりうまくいったとは言えない。こんな風に1日を過ごして、間違ったこともなにもかもを「眠い」に押し付けて、忘れていく。そんな夜が一体これからいつまで続くんだろう。不毛だから考えないでおこう。

 

ああ眠い。

 

 

摂理

大切なものを何度も見失ってさ

それに気付かず歩き疲れまた嘆く

生き方がどうしようもなくなってきた頃

しょうがなかったと自分の醜さを吐き捨てては

もうドロドロに溶けた飴玉を舐めていく

 

気にしないって嘘ついた後に

気になってこじ開けた包装紙

きっとまだ俺はあの頃のまま

何も変わらず呑み込まれてく

馬鹿みたいな普通に騙されて

疑問も抱かず呑み込まれてく

 

 

変わっていくことが変わらないこと

そんな言い訳もう聞き飽きた

上も下の右も左も無いまま

何故か放せない大切なものを

ずっと握りしめてる

あの頃の俺みたいに

 

 

そんな歌を歌えばきっと

もう何にも俺を止められないと

青臭いガキのまま俺は

何も変わらず呑み込まれてく

気付かないまま呑み込まれてく

落ちていきながら形を変える

重力に逆らって魂が飛んでく

身体が弾けて粉々になる

もうそこには何にも無くなる

また同じ様に俺は

何も変わらず呑み込まれてく

 

大切なものを何度も見失ってさ

それでもまた歩いて行く俺は

そんなに変わり者じゃないらしい

大切なものを何度も見失っても

俺はまた同じ様に

包装紙を開け始めるのだろう

 

大切なものを何度も見失ってさ

 

 

 

 

 

オノマトペ

暮れ頃。青いまま落ちた空の色。黒が混ざっている。自転車で河川敷に土手の上を走っていると、雨が降ってきた。立ち漕ぎで駆けていると、学ランに雨が当たって、ポツポツ音がした。自転車の灯りが雨に当たって、キラキラ光った。その刹那的に移ろいでいく光の模様が、体の全部を照らしてくれた。ポツポツ、キラキラと、その音色とはとても言えない当然の擬音が、ただただ心地よかった。

 

あいつは今どうしてるだろうか。さっき別れたあいつは今日、とことん運がなかった。

夢見鳥

夜に意識を放ってから、朝が来て、意識がすっと戻ってくる。喉が焼けつくように痛い。最近ずっとそうだ。口内がまるでエイリアンの体表みたいに、ぐちゃぐちゃで、乾いている。

 

そんな風に朝が始まってしまうものだから、わざと不機嫌な顔をして階段を降りる。そんなことしたところで、見てくれる人なんていないのに。

 

目を閉じたまま、ただある食べ物を食う。記憶が曖昧なまま、服を着替える。愛せないまま、自転車を漕ぐ。嫌悪感にぐるぐる巻きにされたまま、脳を働かす。ここはどこかもわからないまま。なにをすれば良いのかもわからないまま。受け入れられないまま、何度も思い返そうとする。思い出せない日が続く。行動できない毎日が続いて、掴んでは離し、忘れていく。嗚呼。鳥の声を着ていたい。俺を呼ぶ声が過去から聞こえる。

 

今日はできるかな。なんて思うのも、何度目だろう。予定なんてない。飛べない鳥のまま、飛ぶ夢を見ようと、今日も夜に意識を放る。

金縛り

山の斜面に沿ってできた日本式の街並みが見えた。瓦と石垣と提灯とお屋敷と、あと何があったっけ。一回全部を黒で潰して、そこに青やら黄やらの絵の具を塗っていったみたいに、ただ、広い海だけが残る夜。僕はただ、海を見て、泳ぐ魚に移入したつもりでいる、廊下脇の、1つのシミだ。

 

 

追いかけたいものも、もう何にも無くなって。胸に残るのは、錯覚の記憶だけ。

 

 

 

ああ確かその町の上には、でっかい月が出てたっけ。あれにこれから、誰が目指すだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ今日ぐらい、誰でもいいから「かわいそう」って言っておくれよ。